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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

彼はそう心をきめた。

お豊は戻って来なかった。遊びにいっていると云った幸坊も、たぶんお豊たちが伴れていったのだろう。やはり帰っては来なかった。幹太郎は自分で寝床を延べて寝、夜明けを待って起きると、差配を訪ねて家のことを頼んだ。

――お豊が来たら荷物を渡してやるように、それまでは閉めきって鍵を掛けておくように、店賃は自分が払うから。

と、彼は念を押して云った。

差配は承知した。お豊についてなにか知っているとみえ、なんの質問もせず、まるでこうなるのを待ってでもいたように「承知いたしました」と云った。

幹太郎は駕籠をとばせて下屋敷へ帰った。

道場の稽古をちょっと覗き、それから顔を洗い直したり着替えをしたりして、すぐに富原家を訪ねた。すると「役所へあがるから夜にしてくれ」と断わられたので、門切手だけ返して道場へ戻った。

朝食を済ませてから、道場へ出ることは出たが、どうしても稽古をつける気になれない。それで伊勢と上村に代理を頼み、住居へ引込んで横になった。

――まさか売女などはしなかっただろうが。

と、彼は横になって考えた。

――万一そんなことがあったにせよ、自分には関係のないことだ、お豊とのかかわりを詳しく話せば、わかってくれるに違いない。