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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
そんなことを思いめぐらしているうちに、幹太郎はいつか眠ってしまった。
気持の疲れと、前夜よく眠れなかったためだろう。白川久三郎に呼び起こされたときはすでに、午まぢかな時刻だった。
「柴田さんがお呼びです」と、久三郎が云った。
幹太郎は「待ってくれ」と云い、顔を洗って来て「柴田さんだって」と訊いた。そうです、若年寄の柴田頼母さんです、と、久三郎が云った。富原さんではないんだな、と念を押しながら、幹太郎はふと不安な予感におそわれた。
柴田頼母は、道場師範としての幹太郎の支配役である。助教として入藩したときも、正師範に直ったときも、頼母からその旨を伝えられた。――したがって、頼母が呼ぶということは、用件がなんであるか、殆んどきまっているといってもよかった。
久三郎は「私が御案内します」と云った。幹太郎は着替えをし、袴を着けて出た。
案内されたのは柴田家でなく、役所の御用部屋であった。頼母は四十歳ばかりの、痩せて色の黒い、能面のように表情のない顔つきの人だったが、幹太郎が坐ると、側にいた書役をさがらせ、二人だけになって、静かにこちらを見た。
用件は「辞任してもらいたい」