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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
「いいとも」と、深喜は頷いた。
「じつは、おれはもう、かやさんと結婚しているんだ」
「結婚だって――」
「今年の二月だ」
深喜には、まるでわけがわからなかった。
「それはどういう意味だ」
「このまえ会ったとき、おれは淵辺道場がだめだということを話した、実際そのとおりだったし、現在では没落はもう時間の問題だといってもいい、おれはこんな体で、淵辺にいるから食ってもゆけるが、あの道場からはなれれば生活ができない」
深喜は眼をそらした。
彼が道場を持つようになったら、秋田に経理をやってもらうつもりだった。しかし、いまそれを云ったところで、慰めにもなりはしないだろう、と深喜は思った。
平八は続けて「それで、おれは、まえから自活する手段を考え、毎月の手当の中から、いくばくの銀を貯めていた」と云った。そうして今年の二月、下谷の黒門町で、小さくはあるが中通りの表に店を借り、小間物屋をはじめた。それには自分がまだ道場に勤めているので、誰か店をやる者がなければならない。そこで、かやに来てもらい、彼女がずっと店の経営をしている、というのであった。
「田舎のお母さんの承諾は受けている、平手にはそのまえに相談したかったのだが、反対されることはわかっていたし、事情がいろいろ切迫していたものだから、怒られるのを覚悟のうえでそうしてしまったんだ」