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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
そう云って平八はまもなく立ちあがった。
深喜は彼を見送らなかった。
――おれは、のけ者だ。
平八が去ったあと、深喜はそこへ坐ってながいこと、もの思いに耽った。
――千葉先生もそうだ。
みんなが、出稽古先を持っているのに、自分だけには与えてくれない。こんどの招待試合にも、順序からいえば自分を選んでくれるのが当然だ。それを(もうその必要もない)井上などに振当てている。実力ならおれのほうが上だということは、先生の眼には、わかっている筈なのに、と深喜は思った。
「――これはどういうわけだ」と、深喜は呟いた、「おれのどこが悪いんだ。どうして、おれだけが、のけ者にされるんだ、どうしてだ」
彼は小机に肱をつき、両手で頭を抱えた。
――故郷も無くなった。
彼がそこで生れ、そこで育った故郷には、もう家もなく、土地もない。それらは家長である筈の彼に無断で他人の手に渡され、妹たちや、母までが、江戸へ出て来てしまう。
「なぜ、ひとこと話してくれなかったのだ、秋田は事情があったと云っている、秋田には相談したのだろう、他人には相談をしたのに、どうしておれには黙っていたんだ」
頭を抱えたまま、彼はそこに妹たちでもいるかのように問いかけた。