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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

しかし、よかった。深喜は気がゆるみ、恐怖が消えてゆくのを感じた。指で刃先を撫で、その指を小川の流れで洗い、濡れた指を袖で拭いて、また刃先を撫でた。幾たびもそれを繰り返してから、刀を袖口の裏で丹念に拭きながら、彼はくくと嗚咽し始めた。

腰から鞘を脱して、刀をおさめると、それを頭のうしろに当てて、深喜は仰向けに寝ころんだ。そうして、彼は、ながいこと泣いていた。

風が渡るたびに、身のまわりで枯草が揺れ、かさかさと乾いた音をたてた。遙かに遠いところで人声がし、犬の咆える声が聞えた。

「どうなるんだ」と、泣きながら彼は云った、「お母さん、私はどうなるんですか、これからどうしたらいいんですか、私の一生はこれでもう終ったのですか」

彼の頬を枯草が擦った。

深喜は自分の一生がもう終ったように感じた。自分は『是』と信ずるとおりに生き、努力してきた。そうして来たつもりである。だが、その努力からはなにも酬われなかった。父が失意のうちに山村で空しく死んでしまったように、自分もむだな努力に疲れはて、なにも酬われることなしに、どこかでのたれ死にでもするのではないか。――彼には、のたれ死にをした自分の姿が見えるように思いそれが逃れることのできない『自分の運』