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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

だという気がした。

「そこの人、どうなすった」と、呼びかける声がした。深喜ははね起きて振返った。道の上に人が立停って、提灯をこちらへ向けている。半纒に股引をはき、もうろく頭巾をかぶっていた。

「躯のぐあいでもお悪いか」

「いや、なんでもない」

深喜は立ちあがった。

「悪酔いをしたので醒ましていたところだ」

「それならいいが」と、男は云った。深喜は道へあがった。男は老人で、深喜が近よると「お武家さまですね」と云い、足もとが暗いから、そこまでお供をしましょうと云った。

「いましがた日本堤で、人を斬ったお侍があったそうでな」と、老人が云った、「木戸や辻番に触が廻ったようですから、一人でいらっしゃると疑われるかもしれません、よろしかったら私の家へ寄って、夜明けまで休んでゆかれたらいかがですか」

「人を斬った――」と深喜が訊いた。

「詳しいことは知りません、腰とか太腿とかを斬られたそうで、命には別条はないということでしたが、このところ二三回そんなまちがいがあったそうで、みんな騒いでいるらしゅうございます」

「此処は入谷あたりだな」

「へえ、金杉上町でございます」

「爺さんはこの近くか」