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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
こう思うと、江戸へ来てから四年間の辛労も、あたたかく彼をあやすかのように思えた。
八時ちかくに、五人の客が帰った。
それを送りだすとまもなく、幹太郎は師範から呼ばれた。秋田平八は微笑しながら、立とうとする幹太郎に頷いた。
「あとで奢ってもらうぞ」
「そうありたいものだ」と、幹太郎は答えた。
淵辺十左衛門は居間で茶をのんでいた。彼は五十二歳になる。色の黒い、どこにも特徴のない平凡な顔だちであるが、躯だけは逞しく、力士のような肩を持っていた。剣客というよりも、農夫か樵夫といった感じで、髪毛もまだ黒かった。
幹太郎が坐ると、十左は静かな調子で、今日の(彼の)試合ぶりを褒め、腕の上達したことを褒めた。
幹太郎は顔がほてってき、胸がどきどきした。十左は言葉まで改め、これまで「平手」と呼びすてにしていたのを「そこもと」と云った。
「わしは教えるだけ教え、そこもとは会得するだけ会得した」と、十左は続けた、「四年間よく辛抱し、よく修行されたが、わしとしては、もはやそこもとに教えることはない。だが、この道に極まりはないのだから、他にもっとよき師を選び、さらに修行を積まれるがよいと思う」