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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(七)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。
N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 頁
われがちに逃げこむや否、
「すわや、たいへんだぞ。諸門を閉めろ。吊橋をあげてしまえ」
と、まるで雷鳴の下に耳をふさぐ女子のように打ち震えていう。
趙雲はまだ杯を持たない間に、この騒動を耳にしたので、
「何事か」と部下に問わせた。
張翼はそこへ来て、祝杯どころではないといわんばかりな顔をして告げた。
「一大事です。曹操が来ました。自身大軍をひきいてやがてこれへ来ます。いやその軍容の物々しさ、何万騎やらただ真ッ黒になって漢水を越えてきます」
すると趙雲は炬のごとき眼をして、張翼の卑怯を叱った。――知らずや汝、むかし長坂の戦に、曹軍八十万の兵を草芥のように蹴ちらし去ったのは誰であったか――と。そして、すぐ張翼のほかの者をも激励した。
「すべての陣門を敵へ開け。射手はみな壕の中に身を伏せろ。旗は潜め、鼓は休めよ。そして、林のように、寂として、たとい敵が眼に映るところまで来てもかならず動くな」
かくて、しばらくすると、まったく鳴りをしずめた城内から壕橋へかけて、戛々と、ただ一騎の蹄の音が妙に高く聞えた。
見れば、趙雲ただ一騎、槍を横たえてそこに突っ立っている。手をかざして彼方を眺めれば、里余にわたる黄塵の煙幕をひいて、魏の大軍がひたひたとこれへつめよせて来る。