Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
「いつぞやはいろいろと厚いお世話になりました……」
千浪は心もち窓に近寄って、しとやかに白い頸を見せて頭を下げた。
「して今日は?」
と新九郎は動悸めく胸を隠すような声で、やっと訊き返した。
「父上の傷手もややよくなりましたゆえ、ご当家のお兄上さまに、お礼を申し上げに来ております」
と云いながら、いつか足は僅かずつ寄って新九郎の窓の外まで来てしまっていた。
「そうでござりましたか……」
と臙脂と匂い袋の強い薫りが、新九郎の若い血を嵐のように騒がせた。赫っとした熱い顔を伏し眼にして、彼は現な目を絵具皿に吸わせていた。
「おや、お見事な絵を遊ばしますこと……」
麝香を噛んだような女の息を、耳元に感じた新九郎は、今にも頬へ触れてきそうな黒髪の冷たさを想像して答えをするのを忘れている。
「狩野ではござりませぬような……その絵具のお使い方は土佐をお学びでござりますか」
「ほんの戯絵でござりまするわ」
「どう致して、お見事でござりますこと……」
千浪は何気なくむっちりした白い手を机の端に伸ばすと、新九郎はあわててその手を上から押えた。そして――見せてと甘え強いるような千浪の力を疼くほど熱く感じながら、新九郎は拒むふりして痛いほどその手を握り返した。