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にっき
日記
宮本 百合子
08 一九二二年(大正十一年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,285 字 · 204 页
八月二十三日
八月二十四日
あんなのも、よい境遇と教育で、ほんとうの芸人になれるのにと思い、妙な心持がした。
八月二十三日(水曜)雨
いかにも山里の初秋の雨と云う風情、大きい雨滴が落ちるのではなく一帯に濃いもやがこめ、やがて音もない雨となる。
Aと温泉などに居る退屈さが、しみじみと身にこたえた。独善的だから、隣との交渉はなく、さりとて、自分は、金の勘定をしたり、同じ見物案内のようなものを繰返して見たり、ろくに話もはずまない。夏中したいと思って居た仕事が出来なかった恩をきせられ、なまけのエキスキュースを与えるか、と思うと、実にいやな心持がする。あんなに本をよむことのきらいな学者が何処の国にあるか。二度と此那旅行はしたくなし。只、毎日毎日と流れる時間があるばかり、快活な、心の満ちた生活は、何処にもありはしないではないか、Aは、生活の真実な欲がないのだ。静に、能うべくんば小さい手柄位で、じっと生存して居たいのだ。
八月二十四日(木曜)雨
昨日終日降りくらし、今朝も雨戸をしめる程に降りしきる。
笹森の端から、しぶきが部屋に入る。かけいを流れる湯の音、かおり。いかにも山の湯の雨なり。
戸外に出られないと云うばかりでなく、Aと毎日鼻をつき合わせて居る生活にたまらなくなって来た。