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にっき

日記

宮本 百合子

08 一九二二年(大正十一年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,285 字 · 204 页

青空文庫

四月三十日

ベートウベンによってのみ響く音によってだ。そこで、言葉は神、と云うことが、文字を使う芸術には云われるのが当然ではないだろうか。技巧などと云うことを、浅薄にとらず、言葉、我が書く文字は神、唯一無二絶対なものであると云う信頼、良心、は必要だ。又制作の心が純であればそうなると思う。言葉に牽かれて筆が進むのではなく、文字が、心が流れ出し、筆に写る。いやしくも文字を使うものは、その文字と云う材料=建築の大理石――に、自己独特の美調和、神を認め、創造するのが、つまり、内容でではないか。

四月三十日(日曜)雨

一日うち、昨日から見ると、秋が来たような寒さだ。鳥の巣を拵えてやり、宮原さんが来たりして、夜、三浦環さんの帰京のことから、話が我々のことになって来た。丁度食事をしまったままで話すうち、今夜は時に自分の問題がなかったので公正にきけ、又話せ、いろいろ今まで達しなかった理解に達した心持がした。つまり、私が、仕事を真先に立て、Aもそれは認めて居乍ら、自分の心持が徹底しない為に、仕事専一になり切らない、と云うこと。私がAの為に死なないのは、Aに判って居る、それでよいのも判って居る。