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にっき
日記
宮本 百合子
08 一九二二年(大正十一年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,285 字 · 204 页
八月二十二日
見て居ると、何だか人間的で、苦痛、と云うような感をつよくうけた。かえり路には、夕立に会い、山路でころび、珍らしい経験をした。山路が上りと下りとではまるで違った処のように見えまして雨でも降ると一帯の様子がすっかり違うのは面白い。
八月二十二日(火曜)
なかなか涼しく、ひとえ一枚では肌さむい位。名所案内のようなものに実朝の歌をよみ愛を覚えた。よい歌のよみてであった。
那須にのぼり面白く思ったのは、あんな山としてはすごい、恐ろしい山が一向凄しい感を与えないことだ。すっかりコムマアシャライズして居るからではないか。
むかし、あのひどいつづら折りなす山の路をぬけて往来した旅人こそ、あの山の驚異、すさまじさ、自然に対する恐れに打たれたのではないか。つかれが出、体も足も動かせないようだ。うちに居、「ジャン・クリストフ」をよむ。教えられること多し、自分が肉体的にも丈夫なのが、すべて凡庸の根源ではないかとさえ思う。あったかい寝床につっこんで居ようとする中流人の根性に対する作者の強い言葉がむねを打った。昼頃何だか三味線の音がする。見ると、十二三の男の子が弾きうたって来るのだ。