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にっき

日記

宮本 百合子

08 一九二二年(大正十一年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,285 字 · 204 页

青空文庫

三月九日

現今流行の長篇、又はそれに対抗する短篇味の強調等、人類の文化の上で、只或時代には、ああ云う一傾向が現れた、と記録されるに止り、未来の人間が見て、そんな過渡期もあったのか、とのみ思わせられるのでは仕方がない。

もっと腹を据えて、遠い先を見込んだ芸術、人間の本性、要求、進展にきっと向った視点を持って居なければ大変だと思う。自分には近頃フラグメンタルな仕事に自分をいそがしくして居る人間が、時として味わされる、いそがしさの快感を知った。駄目だ。忘れてしまわなければ、駄目だ。斯様な点に至ると、Aは凡人だからな。金のある凡人が「生活のためには書かない」と納って怠惰になり、金のない凡人が、いそがしさと、収入とにくらまされて、仕事のための努力と、金欲しさとの努力を混同する。

三月九日(木曜)曇

恐ろしきエゴイツティック

或男、中年、自分が若いときにあまり仕事をせず近頃漸く仕事もまとまり出す。

妻 まだ若い。男のように決算を始めるのではなく、此から収穫して行こうと云う時、楽しみも苦しみも、広く人生に当って行きたい時、

男 妻の人生の学習に共同出来ない。する丈の余裕がないと云って、妻のその態度を遊戯的だと叱り、自分はもう先がないのだから、自由にさせて呉れと云い、その何よりの恐怖である処の死でおびやかし、犠牲をさせようとする。