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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

鍬

一

「――お通さん!」

その時、音羽の滝のうえの辺りで、こう誰か呼んだ声が、樹の声か、星の声かのように、暗い風の中をまわって、この低地へも聞えて来た。

鍬

一

どう巡りあわせて、こんな所へ、宗彭沢庵が今頃やって来たわけか。

元より、偶然であろうはずはないが、いかにも唐突に似て、いつも自然である彼の姿が、今夜ばかりは不自然に思える。まずその事情がらを先に糺してみたいが、今はその由来因縁を彼に問うている遑もなさそうなのである。

――なにしろ、あの何時も、のほほんの沢庵坊にしては、めずらしいほど慌てていて、

「おオい、どうじゃい、宿屋さん、見つかったかい?」

彼とは、べつな方角を捜しまわって来た旅籠の手代が、彼の方へ駈けて来て、

「見当りませんよ、どこにも――」

と、あぐねたようにいって額の汗を拭く。

「変だね」

「おかしゅうございますな」

「おまえの聞き違いじゃないのか」

「いいえ、確かに、夕方清水堂のお使いが見えてから、急に、地主権現まで行ってくると仰っしゃって、手前どもの提燈をお持ちになったのですから――」

「その地主権現というのが、おかしいじゃないか。この夜中に、なにしに行ったのだい」