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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

九

九

大風が掃いて行ったように、並木の道にはもう弥次馬の影も見えない。

清十郎の呻きを乗せた戸板の一群れは、敗旗を巻いて故山に帰るつかれた兵馬のように、悄然と、怪我人の苦痛を気づかうような足なみで歩いて来た。

「……おや?」

ふと足を止めると、戸板を支えてゆく前の者が、自分の襟くびへ手をやった。後の者は、空を仰いだ。

戸板の上へも、ハラハラと松の枯れ葉がこぼれて来たのである。見ると、並木のこずえに、一匹の小猿が、キョトンとした眼を下へ向け、わざとのように、尾籠な姿態を示している。

「ア痛ッ」

仰向いた顔の一つへ、松の実が飛んで来たのである。顔を抑えて、

「ちくしょうッ」

その男が、小柄を投げた。小柄は、細やかな葉の隙間を光って通りぬけた。

口笛がどこかで鳴った。

小猿は、とんぼを打って、並木の樹蔭へ跳び下りた。そして、そこに佇んでいた佐々木小次郎の胸から肩の上へ、ヒョイと乗る。

「……オ!」

戸板をかこんでいる吉岡門下の人たちは、初めて、小次郎の姿と、もう一人の朱実をそこに見出したもののように、ギクと、眼の光を革めた。

「…………」

担架のうえに横たわっている怪我人をじっと見ていたが、小次郎は決して、それへ向って嘲笑らしいものは泛べてはいなかった。