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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

懸り人

一

と、いって、駒の背から降りてしまった。兵庫は、足をとめて、

「なぜ降りるのじゃ。乗っておればよいのに」

と、顧みる。

「でも、あなた様に口輪を把らせて、女子のわたくしが……」

「相変らず遠慮ぶかいなあ。さりとて、女子に口輪をつかませて、わしが乗って帰るのもおかしい」

「ですから、二人して、口輪を把って参りましょう」

と、お通と兵庫は、駒の平首を挟んで、両側から口輪を持ち合った。

坂を降りるほど、道は暗くなった。空はもう白い星だった。谷の所々には、人家の明りがともっている。そして渋谷川の水が音をたてて流れてゆく。

その谷川橋のてまえが、北日ヶ窪であり、向うの崖を、南日ヶ窪とこの辺では称んでいる。

その橋手前から北側の崖一帯は、看栄稟達和尚の創始されたという、坊さんの学校になっていた。

坂の途中に今見えた「曹洞宗大学林栴檀苑」と書いてあった門がその入口なのである。

柳生家の邸は、ちょうど、その大学林と向い合って、南側の崖を占めているのであった。

だから、谷あいの渋谷川に沿って住んでいる農夫や、小商人たちは、大学林の学僧たちを北の衆とよび、柳生家の門生たちを南の衆と呼んでいた。