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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

二

船ばし様というのは、堀川船橋に住居があるところから、紹由の遊里名。また水落様というのも、同じく、光悦のここだけの遊び名前。

武蔵だけには、一定の住所もないし、従って隠し名もない。

名前の詮索ばかりするようであるが、この林屋与次兵衛というのも、楼主の表名前であって、遊女屋としての暖簾名は、扇屋というのであった。

扇屋といえば、今この、六条柳町に嬌名のたかい初代吉野太夫の名がすぐ思い出されるし、桔梗屋といえば、室君太夫の名をもってひびいている。

一流とゆるされる青楼は、その二軒に限っていた。光悦、紹由、武蔵の三人が客となって坐ったのは扇屋のほうなのである。

(――これは、絢爛な、城郭のようなものだな)

武蔵は、なるべく眼をうごかすまいとしても、つい、格天井や、橋架の欄干や、庭面の様や、欄間の彫刻など、歩くたびに、眼を奪われてしまう気がする。

「おや、どこへ行かれてしもうたのか」

杉戸の絵に見恍れているうちに、光悦や紹由を見失ってしまい、武蔵が廊下を迷っていると、

「こちらじゃ」

と、光悦が招いている。

遠州風の石組に、白砂を掃きならして、赤壁の景でも模した庭造り師のこころであろうか、北苑の画にでもありそうなそこの庭を抱いて、大きな二間の銀ぶすまが灯に濡れている。