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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

七

――あの山には、馬や野菜物さえのべつ攫ってゆく野伏りが、たんと巣を喰うているそうな。おおかたそんな無頼者の仕業であろうが」

七

ぶすぶすと、松明の先っぽに風が燃える。

巨きな山岳の裾は、風が来たと思うと、ぐわうと草木もふき捲いて、凄い一瞬の鳴りを起すが、止んだとなると、ハタと息をひそめて、不気味なほど静かな星のまたたきばかりとなる。

「旅の者」

権之助は、手に持つ松明を挙げて後から来る武蔵を待ちながら――

「気の毒だが、どうしても知れねえのう。これから野婦之池までゆく途中、もう一軒、あの丘の雑木林のうしろに、猟をしたり、百姓したりしている家があるが、そこで訊いても知れなければ、もう探しようがねえというもんだが」

「ご親切に、辱い。これまで十数軒を訊き歩いても、なんの手懸りもなければ、これは拙者が方角ちがいへ来ているのであろう」

「そうかも知れねえ。女を誘拐す悪党などというものは、悪智恵に長けているから、滅多に追いつかれるような方角へ逃げる筈はねえ」

もう夜半を過ぎていた。

駒ヶ岳の裾野――野婦村、樋口村、その附近の丘や林など、宵からおよそ歩き尽くしたといってもいい。