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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页
六
父に非ざれば、毒の命を落すを知らず
母に非ざれば薬の病を救うを知らず
父母、外の座席に往き
美味珍羞を得るあれば
みずから喫わず懐に収め
喚びて子に与え、子の喜びを歓ぶ
「やい。……またベソを掻いてんのか」
「何だか、思い出しちまった」
「よせやい、てめえがベソを掻き掻き誦むもんだから、おれっちまで、変てこに、涙が出て来やがるじゃねえか」
六
無法者にも、親があった。
粗暴な、生命知らずな、その日暮しな、あらくれ部屋のゴロン棒も木の股から生れた子ではない。
ただここの仲間では平常、親のことなど口にすると、
(てッ、女々しい野郎だ)
と、片づけられるので、
(ヘン、親なんぞ)
と、有ってもない顔をしているのを、潔しとしている風なのだ。
その父母がふと今、彼らの心の底から喚び起されて、急にしんみりしてしまったのであった。
初めは、鼻からちょうちんを出すように、ふざけた節をつけて、謡に唄って誦んでいた父母恩重経のことばも、それがいろはのように平易なので、誦むにつれ、聴くに従い、だんだん分って来たものとみえる。
(おれにも親があった)
ことを思い出すと、その身が、乳をのみ、膝に這った頃の、幼心に返って――形こそ皆、腕枕をかったり、足の裏を天井にあげたり、毛脛をむき出したりして、ごろごろ寝転んではいたが、知らず知らず頬に涙を垂れていた者