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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页
三
その老母を牛の背にのせ、権之助は、例の四尺ほどの棒と手綱を持って、武蔵の姿を睨めあげていうのだった。
「客人! いい所で会った。だまって俺の宿から逃げ出したのは、こっちの肚を察して、躱したつもりだろうが、それでは俺の立つ瀬がねえ。もういっぺん試合をしろ。おれの杖をうけてみろ」
三
――降りかけた足を止めて、武蔵は岩と岩の間の急な細道の途中で、しばらく、岩に縋ったまま、下を見ていた。
降りて来ない、と見たか、下なる権之助は、
「おっかあ、ここで見ていさっしゃい。なにも、試合するには、平地と限ったこたあねえ。登って行って、あの相手を、眼の下へたたき落してみせる」
母の乗っている牛の手綱を放し――小脇の杖を持ち直して――やにわに岩山の根へ取りつこうとすると、
「これ!」
彼の母はたしなめた。
「いつぞやも、そのような粗忽が不覚の因ではないか。いきり立つ前に、なぜよう敵の心を読んでおかぬのじゃ。もし上から石でも落されたらどうしやる」
なお何か、母子のあいだで、交わしている声は聞える。しかし意味は武蔵の所までは聞きとれない。
その間に、武蔵は肚を決めていた。――やはりこの挑戦は避けるに如くはないという考えである。