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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

二

「アア、冷たい! 酒が歯にしみる」

伝七郎と呼ばれた男は、やっと眼を醒ましたように大きく呟く。

その首を、ぬっと、四ツ手の外へ突き出して、空の星を仰ぎながら、

「まだ夜が明けないのか。……おそろしく早かったな」

「お兄上の身になれば、まだかまだかと、一刻も千秋の思いで、お待ちかねでございましょう」

「おれの帰るまで、兄貴の生命が保っていてくれればいいが……」

「医者は保つといっておりますが、何分ひどく昂ぶっていらっしゃるので、時折傷口から出血するのがよくないそうで」

「……むむ、ご無念だろうな」

口を開いて、竹筒を逆さにしたが、もう酒はなかった。

「――武蔵めっ」

その竹筒を大地にたたきつけ、吉岡伝七郎は荒々しくいった。

「いそげっ!」

二

酒もつよいが、癇癖もなお強いらしい。もっと強いのは、この男の腕ぶしであって、吉岡の次男坊といえば世間の通り者だった。兄とは両極端な性質で、父の拳法が生きていた頃から、父をしのぐ力量のあったことはほんとで、今の門下でもみな認めている。

(兄貴はだめだよ。あれやあ、親父の跡目など継がないで、おとなしく禄取にでもなればよいのさ)

これは伝七郎が面と向ってもいう口吻なのである。