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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

四

おれの、その歯の痕を、人が見たら何と思う? ……。武蔵が知ったら何と考えるか。……まあ当分の間、いずれ俺の物となるてめえの体に、それを手付の証印として預けておくぜ。逃げるなら逃げてもいい。おれは天下に、おれの歯型のある女に触れた奴は、おれの女讐だといって歩くから」

「…………」

梁の塵を微かにこぼして、真っ暗な堂内の床には、よよと泣きむせぶ声ばかりだった。

「……止せっ、いつまで、泣いてやがって。気が滅入ってしまわあ。もう苛めねえから黙れ。……うむ、水をいっぺい持って来てやろうか」

祭壇から土器を取って、外へ出て行こうとすると、そこの木連格子の外に立って、誰か、覗き見していた者がある。

四

誰か? ――とぎょっとしたが、堂の外に見えた人影は、途端にあわてて逃げ転んで行く様子なので、又八は猛然と、木連格子を排して、

「野郎っ」

と、追い駈けて出た。

捕まえてみると、この附近の土民らしく、馬の背に、穀物の俵を積み、夜を通して、塩尻の問屋まで行く途中だという。そしてなお、諄々と、

「べつに、どういう心算でもなく、お堂の中に、女子の泣き声が聞えたので、不審に思って、覗いてみただけでござります」