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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

三

と、淋しげに微笑んだ。

三

牡丹の火は、白々と燃えさかり、炉辺の人々は、更ける夜を、つい忘れていた。

「なにもありませぬが、ここに灘の銘酒と、牡丹の薪だけは、夜が尽きても尽きないほどございますから」

という吉野のもてなしぶりに、人々はすっかり満足して、

「なにもないどころか、これは王者の奢りにも勝る」

と、どんな贅沢事にも飽いている灰屋紹由すらが、神妙に感嘆してしまう。

「その代りに、なんぞ、後の思い出となるように、これへ一筆ずつ、お残し下さいませ」

と吉野が、硯を寄せて、墨をおろしている間に、禿は次の部屋へ毛氈をのべ、そこへ唐紙を展げて行った。

「沢庵坊、太夫がせっかくの求めじゃ。なんぞ書いてつかわされい」

光広が、吉野に代って促すと沢庵はうなずきながら、

「まず、光悦どのから」

といった。

光悦は、黙って、紙の前へ膝をすすめ、牡丹の花を一輪描いた。

沢庵はその上に、

色香なき身をば

なにかは惜ままし

をしむ花さへ

ちりてゆくよに

彼が歌を書いたので、光広はわざと詩を書いた。その詩は、

忙裏 山我ヲ看ル

閑中 我山ヲ看ル

相看レド相似ルニアラズ

忙ハ総テ閑ニ及バズ

という戴文公の詩であった。