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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

夜の道

一

「ご馳走になりました。先を急ぐ身でもありませんが、試合に及んだ相手方の門人が参ると、ご迷惑がかからぬ限りもありませぬ。――いずれまた、ご縁があれば」

妙秀は、立って行く武蔵を見送って、

「本阿弥の辻へも、おついでの折になど、立ち寄ってくだされい」

光悦もうしろからいった。

「武蔵どの、折を改めて、宅のほうへ、お越し下さい。――ゆるりとまた、話しましょう」

「参ります」

来るか来るかと思っていた吉岡方の者の影は、野のどこにも見当らない。――武蔵はもういちど振りかえって、光悦母子の遊んでいる毛氈の世界をながめた。

自分の歩いている道は、ただ一途で、細くて嶮しい道だと思う。光悦の楽しんでいる天地の明るくて広いことには及ぶべくもない。

「…………」

武蔵は黙々と、野末へ向って、前のとおり俯向きがちに歩いて行った。

夜の道

一

「なんて態だ、吉岡の二代目は。――いい気味だと思っておれは飲んでいるんだ、これで、グッと胸が下がったというものさ」

場末の牛飼町の中にある居酒屋だった。土間のうちは、薪の煙や煮物のにおいでもう暗かったが、外は、夕焼け空が火事のように道まで赤くしていて、暖簾のうごくたび、東寺の塔の夕鴉が黒い火の粉みたいに遠く見える。