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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页
三
河をへだてて、満目に三十六峰が黒々と空からせまる。
その山の一つ一つが、皆、武蔵に対して敵意を示しているように見えた。
――じっと、そこに立ち尽していることややしばらくの後、武蔵は、
「ウム」
と、独り頷いた。
河原へ向って、堤の上から降りて行く。そこには、鎖のように小舟を繋いだ舟橋が架かっていた。
三
上京の方面から叡山――志賀山越えの方角へ渡ろうとすれば、どうしても、この一路へかかることになる。
「おおう……いっ」
武蔵の影が、加茂の舟橋の中ごろまで渡って来た時である。こう呼ばわる声がする。
淙々と瀬の水の戯れは、月の白い限りの天地を占めて独り楽しんでいる。上流から下流まで、ここは奥丹波の風の通路のように冷々と夜気が流れている。――誰が誰をよぶのか、どこに声の主がいるのか、遽かに知るには余りに天地が濶い。
「おオーい」
またしても呼び抜く。
武蔵は、二度足を止めたが、もう心にかけず、糺の中の洲を越えて対岸へ跳び移ってしまった。
と、一条白河のほうから河原づたいに、手をあげながら駈けて来るものがある。見たようなと思った眼に誤りはなかった。佐々木小次郎なのである。