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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

四

ただ、行燈の下に、下男の助市が、挟み筥へよりかかって、孤影悄然と、よだれをたらして眠っていた。

「おい、助さん、風邪ひくよ」

わざと、揺り起すと、

「あ。城太か……」

助市は、眼をこすって、

「こんな遅くまで、御主人様へも無断で、わりゃあ何処へ行っていたのだ」

「何いってんだい」

城太郎はやり返して、

「おいらはもう、とっくの昔に帰っていたじゃないか。寝ぼけて、知りもしないくせに」

「嘘をつけ。わりゃあ、角屋の妓を引っぱり出して、外へ行ったというじゃねえか。――今から、そんなまねしやがって、末恐ろしいやつだ」

間もなかった。

そこへ奈良井の大蔵が、

「今もどったよ」

障子を開けて入って来た。

四

どう歩いても、十二、三里はある。陽のあるうちに江戸へ着こうとすれば、よほど早立ちをしなければならない。

角屋の一行は、まだ暗いうちに八王子を立った。奈良井の大蔵の組は、悠々、朝食をしたため、

「さて」

と宿を立ち出でたのが、もう陽のたかい時分。

挟み筥の下男と、城太郎とは、例によって、お供に従いていたが、きょうの城太郎は、ゆうべの事実があるので、何となく、大蔵に対する気ぶりが違っていた。