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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

「誰にではない、自身の油断を誡めている」

「敵には」

「元よりのこと」

「それでは、もしここへ、吉岡様の門人衆が、大勢して、どっと襲せて来た時には、あなたは立ちどころに、斬られてしまうに違いない。わたくしにはそう思えてなりませぬ。なんというお気の毒なお方であろ」

「……?」

「武蔵さま。女のわたくしには、兵法などという道は分りませぬが、宵の頃から、あなたの所作や眼ざしを窺っていると、今にも斬られて死ぬ人のように見えてならないのです。いわば、あなたの面には死相が満ちているといってよいかも知れません。いったい、武者修行とか、兵法者とかいって世に立ってゆくお方が、大勢の刃を前に控えながら、そんなことでよいものでございましょうか。そんなことでも人に勝てるものでございまするか」

詰問るように、吉野が、こう畳みかけて、言葉のうえで彼を愍殺したばかりでなく、その小心さを蔑むように微笑んでいったので、

「なに」

武蔵は、土間から脚を上げて、彼女の坐っている炉前にぴたと坐り直した。

「吉野どの、この武蔵を未熟者だと笑うたな」

「お怒りなされましたか」

「いうた者が女だ。怒りもせぬが、拙者の所作が、今にも斬られる人間に見えてならぬとはどういう理か」