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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

――わたくしが、粗末ながらこの一面の琵琶を砕いて、あなたに分っていただきたいと思う点は――つまりわたくし達人間の生きてゆく心構えも、この琵琶と似たものではなかろうかと思うことでござりまする」

「…………」

武蔵の眸は、琵琶の胴からうごかなかった。

「それくらいなこと誰でも分りきっていることのようで、実はなかなか琵琶の横木ほども、お肚に据えていられないのが人間でございますまいか。――四絃に一撥打てば、刀槍も鳴り、雲も裂けるような、あの強い調子を生む胴の裡には、こうした横木の弛みと緊まりとが、程よく加減されてあるのを見て、わたくしは或る時、これを人の日常として、沁々、思い当ったことがあったのでございまする。……そのことを、ふと、今宵のあなたの身の上に寄せて考え合わせてみると……ああ、これは危ういお人、張り緊まっているだけで、弛みといっては、微塵もない。……もしこういう琵琶があったとして、それへ撥を当てるとしたら、音の自由とか変化はもとよりなく、無理に弾けば、きっと絃は断れ、胴は裂けてしまうであろうに……、こうわたくしは、失礼ながらあなたのご様子を見て、密にお案じ申していたわけなのでござりまする。