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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

「急にちと大事が起りましてのう。……そうじゃ、お宅に、一乗寺村の割絵図があるまいか」

「一乗寺村といえば、白河からまだずんと端れで、もう叡山に近い淋しい山里。あんな所へ、夜明け前にお出でなされても……」

亭主のいう腰を折って、又八が横から、

「なんでもよいから、その一乗寺村へ行く道筋を、巻紙の端にでも書いておいておくれ」

「承知いたしました。ちょうど一乗寺村から来ている雇人がおりますゆえ、それに聞いて分りよく絵図にして参りましょう。したが、一乗寺村というても広うござりまするが」

又八は少し酔っていた。やたらに鄭重振る亭主の話がうるさそうに、

「行く先のことなんざ心配しなくともいい。道順だけ訊いているのだ」

「おそれ入りました。――では、悠々、お支度を遊ばして」

揉手しながら、亭主は縁へ退りかけた。

ばたばたと、母屋から離屋の周りを、そのとき、旅籠の雇人たちが三、四名駈けていた。亭主のすがたをここに見ると、一人の番頭が、あわてていった。

「旦那、この辺へ逃げて来ませんでしたか」

「なんじゃ。……なにが?」

「あの――この間から奥に一人で泊っていた娘っ子で」

「えっ、逃げたって」