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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

武蔵は独り心の裡で、

(おれこそ)

と、いつも思う。今もまた、そう思うのだった。

――だが、そういうわがことよりも弥まして、このお通の可憐しく、そして不愍でならないと思われるのは、男でさえ、片荷には重すぎる悩みを、女の身で、生活に克ちつつ、恋一つを生命として負い通して来た――その強さと健気さにある。

(もう……一瞬の間だ)

武蔵は、月の位置を見ている。自分の生きている間の時間を思わずにいられない。月はもう残月となっていた。いつのまにか、ずっと西に傾いて、光も白っぽく、夜明けはやがて近いのである。

その月と共に、死の山へ落ちてゆく寸前の自分である。今こそお通に向って、たった一言でも、真実をいいたい。またそれがこの女に対して酬ゆる最大な良心でもあるし――と武蔵は思う。

真実。

しかし、いえないのだった。

胸にはいっぱいに持っている真実が、その真実をいおうとするほど、口には出て来ないで、いたずらにただ、空を見、あらぬ方を見てしまう。

「…………」

同じように、お通もただ地を見つめて、地に涙をそそいでいるしかなかった。――ここへ来るまでには彼女の胸にも、七堂伽藍も焼き包んでしまうような、恋以外には真理も神仏も利害もない、また、男の世界でいう意地も外聞もない――ただ恋のみの熱情があったのである。