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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

「では、ご機嫌よう」

「また、ご上洛の折には」

と寺侍たちも、ここに小次郎の旅先を餞別して、中堂の方へ帰って行った。

小次郎は一人残って、

「ばあさん」

と、奥へ呼び、

「茶代をここへおくぞ。――それから、途中で暗くなった時の用意に、火縄を二、三本貰って行くからの」

老婆は、夕餉の物をかけた土泥竈の前にしゃがみ込んで、焚きつけにかかったまま、

「火縄けい。火縄ならそこの隅っこの壁にいくらでもかけてあるで、要るだけ持って行かっしゃい」

と、いう。

小次郎はずかずか茶店の奥へ入って、隅の壁にみえる火縄の束から二、三本引き抜いた。

――と、釘を外れた火縄の束が、ばさっと下の床几に落ちた。何気なく手を伸ばした時、彼は初めて気がついた。その床几の上に横たわっている人間の二本の脚もとから――顔の方をずっと見上げて、どきっと、鳩尾に当身を食ったような衝動をうけた。

――武蔵は、手枕の上から、眼を開けて、彼の顔を、まじまじと見ていたのである。

四

弾かれたように小次郎は跳び退いていた。ぱっと、無意識の敏捷さだった。

「……おう?」

と、いったのは武蔵。

白い歯を見せて、にやっと笑いながら、今眼が醒めたように、やおらその後から身を起したのである。