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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

――ただ溺るることを誡めて、自分さえ、乱れなければ。

(そうだ、江戸表まで一緒に行って、お通には、もっと女性として学ぶべき修養の道に就かせ、自分は城太郎を連れて、さらに高い修行の道にのぼろう。そして、或る時節が来たら――)

そんな空想に耽ってゆく武蔵の顔に、湖水の波紋の光が、幸福の笑みを投げかけるように、揺々と映えていた。

三

二十三間の小橋と、九十六間の大橋をつないでいる中之島には、古い柳の木があった。

瀬田の唐橋を、青柳橋とも呼ぶのは、その柳がよく旅人の目印にされるからであろう。

「あっ、来たよ」

と、その中之島の茶店から駈け出して、小橋の欄干につかまりながら城太郎は、一方には指をさし、一方の手では茶店の床几をさしまねいて、

「お師匠様だっ。……お通さんお通さん、お師匠様が牛に乗って来たよ」

往来の旅人も、この少年が、なにをそんなに狂喜するのかと、眼をそばだてて不審るほど、彼の足は雀躍りしていた。

「おお、ほんに!」

転ぶように駈けて来て、お通もそこに顔を並べる――

二人して、

「お師匠さまあっ」

「武蔵さま」

打ち振る笠、打ち振る手。

にこりとした武蔵の顔もはや間近であった。