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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

「やいっ」

人間の声がした。

伊織は、つンのめるように、逃げだしたが、大人の足には及ばなかった。そこに張番していた二人の土匪のために、襟がみをつかまえられてしまった。

「どこへ行く」

「なんだ、てめえは」

――声をあげて、わアと泣いてしまえばいいのである。だが、伊織には、泣けなかった。自分の襟がみを吊るしあげている逞しい腕を、生半可、引掻きなどしたので、土匪は、この小さい者にも疑いぶかい眼を光らした。

「こいつ、おれたちを見かけて、何処かへ、知らせに行くつもりか何かだぞ」

「そこらの田に叩ッこんでしまえ」

「いや、こうして置こう」

土橋の下へ、彼は蹴落された。すぐ後から飛び下りて来た土匪は、彼を、橋杭に縛りつけてしまった。

「よし」

と、見捨てて、二人は上へ跳ね上がって行った。

ごうん、ごうん……と寺の鐘が鳴りだした。もう寺でも、土匪の襲来は知ったものとみえる。

村の方に、火の手が揚がった。土橋の下を流れる水が、血のように赤く染まってみえる。嬰児の泣き声が走る。女の悲鳴がながれてくる。

そのうちに、伊織の頭の上を、ぐわらぐわらと、車の轍が通った。四、五名の土匪は、牛車や、馬の背に、盗んだ財物を満載して、そこを駈け通るのだった。