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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页

青空文庫

まず大山街道へ出て、玉川の渡船を経、東海道へ出ようと兵庫はいう。お通の塗笠には、もう夜の露が濡れ初めていた。草深い谷間川に沿って歩くと、やがてかなり道幅のひろい坂へかかった。

「道玄坂」

と、兵庫が独り言のように教える。

ここは鎌倉時代から、衝要な関東の往来なので、道は拓けているが、鬱蒼とした樹木が左右の小高い山をつつみ、夜となると、通る人影は稀れだった。

「さびしいかね」

兵庫は、大股なので、時々足を止めて待つ。

「いいえ」

にことして、お通は、そのたびに幾分か脚を早めた。

自分を連れているために、柳生城の御病人の枕元へ着く日が、少しでも遅れてはすまないと心のうちに思う。

「ここは、よく山賊の出たところだ」

「山賊が」

彼女が、ちょっと、眼をみはると、兵庫は笑って、

「昔のことだ。和田義盛の一族の道玄太郎とかいう者が、山賊になって、この近くの洞穴に住んでいたとかいう」

「そんな怖い話はよしましょう」

「さびしくないというから」

「ま、お意地のわるい」

「はははは」

兵庫の笑い声が、四辺の闇に木魂する。

なぜか兵庫は、心が少し浮いていた。祖父の危篤に国許へいそぐ旅路を――済まないと責めながらも、密かに、楽しかった。