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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
吉川英治『宮本武蔵(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 页
背も伸ばさない。
水も飲みに立たない。
夜が白んで来たのも――小鳥の声がし始めて来たのも――またこの家の戸が、彼の部屋を余す以外すべて開け放されたのもまったく知らずに――彼は三昧にはいっていた。
「武蔵さま」
どうしたのか? ――と案じて来たように、主の耕介がうしろを開けてはいって来たので、彼は初めて、背ぼねを伸ばし、
「……ああ、だめだ」
初めて、小刀を投げていった。
見るともう、削り削りして痩せた木材は、その原型はおろか、拇指ほども残らず、すべて、木屑となって、彼の膝からまわりに、雪を積んだようになっていた。
耕介は、眼をみはって、
「……あっ、だめですか」
「ウム、だめだ」
「天平の古材は」
「みんな削ってしまった。――削っても削っても、木の中から、とうとう菩薩のおすがたが出て来なかったよ!」
こう、われに回って、嘆声をもらすと、武蔵は初めて、菩提と煩悩の中間から地上へ放し落されたように、両手を頭の後ろに結んで、
「だめだ。これから少し禅でもやろう」
と仰向けに寝ころんだ。
そして、眠るべく目を閉じてから、やっと、種々な雑念が去って、なごんだ脳膜のうちに、ただ「空」