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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

そう思うと、腕に覚えは十分ある身、取って伏せたいのは山々だったが、

――いやいやここで腕立てなどしたら、師匠の迷惑は言うまでもなく、殊更、自分は、大望ある身体、千丈の堤も蟻の一穴。辛抱だ――

と、胸を撫でて、

「では、こうして、お詫びいたします程に、お通しなされて下さりませ」

雪之丞は、膝まずいて、白くしなやかな指先を、土の上に並べてついた。

「何に? (では)だと?」

と、浪人は笠にかかって、

「では――とは何だ? 心から済まぬと思うなら、そのような言葉は出ぬ筈だ。許されぬ。堪忍ならぬ」

と、大刀の鯉口を切って、のしかかる。

夕まぐれとは言え、人通りの絶えぬ巷。いつか、黒山のように、人立ちがしているが、如何にも相手が悪いので、雪之丞たちのために、扱おうとする者もない。

雪之丞は、本当に刃が落ちて来たなら、降りかかる火の粉。引っぱずして、投げ退けようとじっと気合を窺いながらも、胸の中は煮えくり返った。

――大道の泥に、手を突かせられ、人さまの前で、辱かしめられるのも、もとはと言えば、役者渡世に、身を落していればこそ、それもこれも、みんな、呪わしいあの悪人共が、親父どのを、悲しい身の上に、蹴落したからだ。