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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

三

彼は魂の底に、日ごろ信心の、神仏をさえ念じる。

――どうぞ、神さま、仏さま、舞台の上にいる間は、このわしを、役に生きさせて下さりませ。さもなくて、心が散り、とんでもないことをしだしますと、第一、師匠にすみませぬ。

彼は、楽屋入りをすました。師匠と並んだ部屋の、鏡の前にすわって、羽二重を貼り、牡丹刷毛をとり上げる。

いくらか、心が澄んで来た。

将門の遺した姫ぎみ滝夜叉が、序幕のだんまりには、女賊お滝の、金銀繍い分けの、よてん姿、あらゆる幻怪美をつくした扮装で現れるわけであった。

開幕を知らせる拍子木は、廊下をすぎ、舞台の方では、にぎわしい囃子の響きが、華やかに波立ちはじめていた。

雪之丞は、心で、手を合せた。江戸下り初舞台、初日の日に、早くも怨敵の一人を引き合せて呉れようとする運命に対して……

三

幻惑的な舞台は、二度開いて、二度幕が下りた。

雪之丞は、生れてはじめてといってもいい程、激烈、熱心な喝采を浴びることが出来た。これまで観なれ、聴き慣れた、科白、仕ぐさとは、全く類を異にした、異色ある演技に魅惑された江戸の観客たちは、最初から好奇心や、愛情を抱いて迎えたものは勿論、何を、上方の緞帳役者がと、高をくくっていた人達までも迫力のある魔術のために陶酔境に引き込まれて、われを忘れて、手を拍ち、声を揚げずには