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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

二

一松斎は笑って、

「あれ程のお方になると、並の生活は、なさりかねると見えるの」

そう言う彼も、依然として、独身生活を続けていると見えて、茶菓をはこんで来るのも、内弟子らしい少年だった。

「拙者の方は、例によって、竹刀ばかり持ち続けているが、どうもまだ、山林に隠れる程の覚悟も決まらぬよ。慰めは酒だ。そう申せば、只今は、灘の上酒を頂いたそうで、何よりだ」

それから一松斎は、満更、芸道にも昏からぬ言葉で、江戸顔見世の狂言のことなど、訊ねるのだったが、ふと、やや鋭い、しかし、静かさを失わぬ目つきで、雪之丞を見詰めると、

「よい折だ。今夜は、そなたに、拙者としてまず第一番の、贈り物をして遣わそう」

雪之丞は、師を見詰めた。

「外でもないが、拙者幼年の頃より、独立自発、心肝を砕いて、どうやら編み出した流儀の、奥義を譲ろう」

雪之丞は、一松斎の言葉を聴くと、のけ反るばかりに驚愕した。

「え? わたくしに、御奥義を、お譲り下されると仰有るので?」

一松斎は、微笑していた。

「如何にも、その時がまいったようだ」

二

奥義を許されると聴いて、雪之丞は、狂気仰天したのも無理はない。