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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

一六

一六

折角、羽翼美しい小禽を、わが手先きまで引き寄せながら、きゅっと捉まえる事が出来ずに、また飛び立たしてしまうような、どこまでも残り惜しく恨めしいのが、わが居間から、このまま雪之丞を去らせてしまわねばならぬ浪路の胸中であったろう――

老女が、三つ指を突いているので、存分に別れることばさえ掛けられず、

「では、また折もあったら、見舞ってたも」

と、いうのが、関の山。

雪之丞は、恋する女の、激しい、強い視線に、沁み入るような瞳を返して、

「必ずともに、明日にもまた、お目通りいたしまする」

二人の今夜の逢瀬は、それで絶えて、それからの雪之丞は、心の中で、この世の鬼畜の頭目と呪う三斎から、聴きたくもないほめ言葉を受けにゆく外はないのであった。

こちらは、軽業お初、松枝町角屋敷の塀を刎ね越して出ると、そのまま、程遠からぬわが侘住居――表は、磨き格子の入口もなまめかしく、さもおかこい者じみてひっそりと、住みよげな家なのだが、そこに戻って来ると、

「婆や、何か見つくろって、一本おつけよ」

と、いくらか、突ッけんどんにいい捨てて、

「おや、姐さん、もうお帰り」

と、けげんそうに、這い出して来た、例の、ずんぐり者の、むく犬の吉に、