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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

二

「やっぱし行りゃあがったな!」

と、呻いて、奥歯を噛んでしまった。

いかに、江戸の隅から隅まで、闇夜も真昼のように見とおす心眼を持った闇太郎にしろ、ろ半を出て、河岸に突っ立った刹那、

――ウーム!

と、吐息が出てしまった。

計りに計って、軽業お初が、雪之丞を陥穽にあざむき入れたとしたなら、事は重大だ。その上、長い時間を費しながら、あれだけの技倆を持った雪之丞が、斬り抜けて、戻って来ぬので見れば、お初の掘った穴の深さも暗さも、十分に了解出来る。

闇太郎は、日ごろ感じたことのない戦慄さえ覚えた。背すじを、川風よりも寒いものが、ゾーッと走った。

――あま! たくみやがったな! それにちげえねえ――

闇太郎は、黒い川水のおもてに、蛇体になって、口から火を吐きながら泳いでいる、執念の女鬼が、こちらに、嘲けりのろいを投げつけているような気がした。

が、彼は、憤って、誓うように、低い怒号を叩きつけた。

――負けるものか! 畜生! あまッ子風情に!

彼は、一種独特の思索の綾いとを、たぐり寄せて見ようとした。

闇の水を睨んでいたが、しかし、結局、うかんで来るのは、白い、美しい、仇ッぽい女の、嘲笑の顔だけで、その女が、どの方角を差して動いたか、どんな手段を取って、雪之丞を陥れたかは、判然しない。