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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

線上閱讀三上 於菟吉《雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 頁

青空文庫

と、彼女は呆気にとられながら、

――この次の狂言の、筋のはなしでもあるのかしら? いいえ、それとは思われない――でも、あの、雪之丞がかたき持ち? あろうことかしら?

妙に胸が、どきついて来るのを押えて、耳をすますと、中では、当の女がたが――

「わたしにいたせば、思い切って、一日も早く、片っぱしからいのちも取ってつかわしたいのでござりますが――父親の、あの長の苦しみ、悶えを考えますと、さんざこの世の苦しみをあたえたあとでのうては、一思いに刃を当てたなら、かえって相手に慈悲を加えてやるような気がされますので――でも、お師匠さま、三斎の娘ずれと、言葉をかわし、へつらえを口にするときの、心ぐるしさ、お察しなされて下さりませ」

この人にだけしか、口に出来ぬ愚痴をも、今夜だけはいえるよろこびに、雪之丞の言葉は涙ぐましい。

「じゃが、心弱うては!」

と、師匠が、

「悪魔にも、鬼にもならねば――この世の望みは、いかにたやすいことも成らぬのが恒じゃ」

「は、わたしとても、その積りでござりますれど――」

お初の、まるで無地のこころにも、いくらか、事の真相がわかって来るような気がされた。