Japanische Klassiker mit Furigana
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さんごくし
三国志(三)
吉川 英治
Lesen Sie 三国志(三) (さんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 312.452 Zeichen · 628 Bildschirme
「夫人、もっと前へおすすみなさい。予が曹操だ」
「…………」
彼女は、ちらと眸をあげた。
なんたる愁艶であろう。蘭花に似た瞼は、ふかい睫毛をふせておののきながら曹操の心を疑っている。
「怖れることはない。すこしお訊ねしたいことがある」
曹操は、恍惚と、見まもりながら云った。
傾国の美とは、こういう風情をいうのではあるまいか。――夫人は、うつ向いたまま歩を運んだ。
「お名まえは。姓は?」
重ねて問うと、初めて、
「亡き張済の妻で……鄒氏といいまする」
かすかに、彼女は答えた。
「予を、ご存じか」
「丞相のお名まえは、かねてから伺っておりますが、お目にかかるのは……」
「胡弓をお弾きになっておられたようだな。胡弓がおすきか」
「いいえ、べつに」
「では何で」
「あまりのさびしさに」
「おさびしいか。おお、秘園の孤禽は、さびしさびしと啼くか。――時に夫人、予の遠征軍が、この城をも焼かず、張繍の降参をも聞き届けたのは、いかなる心か知っておられるか」
「…………」
曹操は、五歩ばかりずかずかと歩いて、いきなり夫人の肩に手をかけた。
「……お分りか。夫人」
夫人は、肩をすくめて貌容を紅の光に染めた。