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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页
能登の長尾村には、昔弘法大師から授かったという煙草の種があって名産になっていた。薩摩の冠岳には蘇我煙草と称して、蘇我馬子と関係づけられていた天然の煙草というものもあった。そういう意外な信仰もあるのである。
ずっと以前瑞西にいた頃に、回教は亜細亜向きの宗教らしいという話をした人がある。耶蘇教は信じてもやがて醒めるが、回教に入った者は出てこないということを謂った。煙草もそうのようだと私は答えたことを覚えている。公認せられたる歴史では、煙草だけは我々は西洋人の後輩だが、心酔の仕方においてはかえって師をしのいでいる。少なくとも西洋の者のせぬことをし言わぬことを言っている。考えてみなければならぬ点だと思う。是も今は昔、或る一人の親族の老女に教えられたのは、煙管で吸っていると時々何とも言えぬくらい、甘くておいしいことがある。それをこの人たちはああ千ぶく目だなと思ったり言ったりしたそうである。阿片は支那においては戦争より大きな事をしているが、始めて白人が是を廈門の駐屯軍へ持ってきたときには、単に煙草のまぜ物として売ったのだそうである。のむという語と吸うという語と、またくゆらすという語との差がここにあるのである。