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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

三

そのために政府が欲すると否とに頓着なく、伊勢でも大和・河内でも、瀬戸内海の沿岸でも、広々とした平地が棉田になり、棉の実の桃が吹く頃には、急に月夜が美しくなったような気がした。麻糸に関係ある二千年来の色々の家具が不用になって、後にはその名前までが忘れられ、そうして村里には染屋が増加し、家々には縞帳と名づけて、競うて珍しい縞柄の見本を集め、機に携わる人たちの趣味と技芸とが、僅かな間に著しく進んで来たのだが、しかもその縞木綿の発達する以前に、無地を色々に染めて悦んで着た時代が、こうしてやや久しくつづいていたらしいのである。

三

色ばかりかこれを着る人の姿も、全体に著しく変ったことと思われる。木綿の衣服が作り出す女たちの輪廓は、絹とも麻ともまたちがった特徴があった。そのうえに袷の重ね着が追々と無くなって、中綿がたっぷりと入れられるようになれば、また別様の肩腰の丸味ができてくる。全体に伸び縮みが自由になり、身のこなしが以前よりは明らかに外に現われた。ただ夏ばかりは単衣の糊を強くし、或いは打盤で打りならして、僅かに昔の麻の着物の心持ちを遺していたのだが、それもこの頃は次第におろそかになって行くようである。