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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页
七
これから南の方へ追々と出て行くと、いずれの島でも日本のような夏で、乾いた北欧の大陸に成長した人々は、大抵は閉口して働けなくなる。その間にあって我々ばかり、以前ならばどうにか活溌な生活を続け得たものだが、今のようなあいの子の服装が癖になってしまっては、折角永い年月ゆかしがっていた常夏の国へ行きながら、常しえの夏まけをしなければならぬ結果を見るかも知らぬ。
七
政府大臣が推奨する質実剛健の気風とかは、いかなる修養をもって得らるるものか知らぬが、もしそれが条件なしに、木綿以前の日本人の生活に立ち還ることを意味するならば、その説は少なくともこの久しい歴史を忘れている。東京の町などでは三十年余り前に、裸体はもとよりはだしまでも禁制した。しかもその当座は草鞋がなお用いられて、禁令は単に踏抜きを予防するにすぎなかったが、もう今日ではことごとくゴム靴だ。そうでなければゴム底の足袋をはいている。足袋は全国に数十の工場が立って、年に何千万足を作って売っている。にえかえる水田の中に膝頭まで入って、田の草を取る足がだんだんに減少する。たまたま犬の一枚革を背に引かけて車を輓き、或いは越後からくる薬売の娘のごとく、腰裳を高くかかげて都大路を闊歩する者があっても、是を前後左右から打眺めて、讃歎する者の無いかぎりは、畢竟は過ぎ去った世の