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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

一七

いよいよ母親が年を取って、家の管理を嫁に引継ごうという日には、新しい鍋の蓋の上に新しい杓子を一本載せ、それを両手に持って嫁に手渡しするのが方式だったという。信州の北アルプス地方でも、まだこの事を記憶している老人があった。男の方も財布に若干の銭を入れて、長男に手渡しして相続の式としたというが、是に伴のうて行われた杓子渡しの儀の方が、多分は一段と古いものだろうと思う。というわけは売って金にする物のほとんと無かった時代には、財布は何の用も無かったのであるが、杓子はその前から、またいかなる場合にも、重要であったからである。

一七

それからさらに一歩を進めて、主婦の分配権の特に意義があったのは、成長した男子のみに供与する酒であった。この権能がもし男の手にあったならば、家族はもっと早く分裂したはずである。酒の供せられる日は時代とともに追々と増加した。最初は朝廷でいうなら恒例臨時の行事、殊に正月と祭礼の日、それから定まったる人生の大事件、すなわち祝い事と称して人の心の常の日と異ならねばならぬときに限られていた。イハフという語の本来の意味は、辞書を見ればすぐにわかる。