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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页
五
どうしても独りの力では始末のできぬように、この世の中はなっているのである。
五
茶碗や皿小鉢が暗い台所に光を与え、清潔が白色であることを教えた功労は大きいが、それでも一方には、物の容易に砕けることを学ばしめた難は有る。木綿の罪責に至っては或いはそれよりもいささか重かった。第一に彼はこの世の塵を多くしている。おかしいことには木綿以前の日本人が、何かと言うと人世の塵の苦しみを訴え、遁れて嬉しいという多くの歌を残しているのと反対に、そんな泣言はもう流行しなくなってから、かえって怖ろしく塵が我々を攻め出した。震災がこの大都をバラックにした以前から、形ばかりの大通りは只吹き通しの用を勤めるのみで、これを薬研にして轍が土と馬糞とを粉に砕く。外の埃はこれのみでも十分であるのに、家の中ではさらに綿密に、隙間隙間を木綿の塵が占領し、掃き出せばやがてよその友だちと一緒に戻ってくる。雨水が洗い流して海川へ送ると言っても、日々積るものの幾分の一にすぎぬであろう。いかに馴れてしまっても是が身や心を累わさぬはずはない。越前の西ノ谷は男たちは遠くの鉱山に往ってしまい、女は徒然のあまりに若い同士誘い合って、大阪の紡績工場に出て働く習いであったが、もう十年も昔に自分が通って見た頃は、ほとんと三戸に一人ぐらい、蒼ざめた娘が帰って来てぶらぶら