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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

一六

とも謂う。すなわち一かたけ、一人一度の食料であって、稗でも粟でも引割麦でも、かねて米と混淆して洗って炊ぐばかりにしてあるのを、その日働いている人の数だけ量り出すのである。掛け算は新しい技術だから尋常の主婦は利用しない。ただ一人一人外で働いている人を思い出しつつ、洩れなくその頭数を桝で算えるのである。こんな事ぐらいは嫁なり女中なりに任せたってよさそうに見えるが、固い家では決してそれをさせなかったといっている。

一六

家の囲炉裏の周囲の座も定まっていた。奥の正面の蓆を横に敷いた席が横座で、ここには主人があぐらをかく。その横座から見て右の側が客座、客の無い日には長男も聟もここに坐った。それと相対する向う側はカカ座、また腰元ともたな元とも謂い、九州では茶煮座とも謂って、争う者のない家刀自の座席である。この夫婦の間にある一隅に、普通は鍋敷があってここで惣菜を煮た。盛るのは当然に主婦の権限で、家を譲った母さえも手は出さぬ。娘が多ければ少し引下ってそのまわりに坐り、嫁は勿論その中に交っている。或る家では姑のちょっと席を立っているうちに、嫁が杓子を握ったという咎により離縁をされたという一つ話もある。