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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「釘勘、やっと目ぼしがついたぞ」
出雲守と対談していた万太郎は、やがて明るい顔をして、月江や金吾に何か言いおくと、飄然として奉行所の外へ出ました。
飄然です。まったく飄然です、彼は釘勘と共に、奉行所の前の石豆腐(差入れ茶屋)で軽い旅支度をすると共に、遠く江戸を離れたのです。
いや、病気というものほど怖ろしいものはありません、彼の持ちまえの猟奇病は、この最後に至ってもお蝶の先途を見届けないでは、まだ何か宿題が残っているような気がして、なんとも気が済まなかったものと見えます。
* * *
中仙道から北国路、善光寺平も過ぎました。道中は、加賀の藩のさる貴人というふれ込みで、前田家の関手形も持っている。その、菅笠合羽の一行が、ひとりの美少女を駕にのせて、急いだ早さといったらありません。
これなん実は山岳切支丹族の変装でした。救われたのがお蝶であることは申すまでもないこと。
ヨハンは山屋敷の石牢で自殺しました。前の夜、事の破れたのを知ったからです。そして、彼女はヨハンの遺命によって、その行くところへ運ばれているのです。
真ッ青な北越の海が目の前にひらけました。