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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

裸馬と騎り人

その時、御隠家自身が何となくハッとしたのは、月江が今の話をそばで聞いてしまったのではないかという疑念でした。

久米之丞の粗野な神経には、そんな心配もひびかぬらしく、月江と知るとにわかに陽気づくッて、

「水入らずのこの部屋に、なんの遠慮がいりましょうか、さ……」

と、自身立ってふすまを開け、

「蹴鞠をしておいでの様子ゆえ、わざとお呼びせずに控えておりました」

「だってもうとッくに日が暮れておりますのよ」

「なるほど、いつのまにか燭台が来ている」

月江は、ツンツンとして坐りながら――

「久米之丞様」

「はっ」

「何をここでお祖父様と話していたんですか。あんなに永く」

「その……やはりあなたのことで」

「私の悪口?」

「滅相もない。――久しぶりでお帰りなされたこと故、今夜は何をして慰めてやろうかというような話を、御隠家様に申し上げていたところです」

「そうそう」

と、千蛾老人も調子よく相槌を打って、

「いいつけて置いた酒の支度はどうしたものじゃ」

と、手をたたいてそれを急かせ、また思いついたように、

「オオ、嬢の慰めにはよいものがある。久米之丞」

「はっ」

「あの奥に泊めてある阿佐ヶ谷村の神楽師ども、田舎能の真似ほどはするであろう。